人は、何に心を動かされるのか
- Masayuki Sato

- 8月10日
- 読了時間: 3分
私は長い間、食やサービスの仕事に携わってきた。
そして今は、地方創生や地域活性化の現場で、食や観光、地域資源をどのように価値へ変えていくかという仕事をしている。
振り返ってみれば、その根底にはいつも、この問いがあったように思う。
その原点となった、忘れられない出来事がある。
東京ディズニーランドが開園して、まだ間もない頃のことだ。
あるレストランに、ご夫婦が来店された。
その日は大変混雑していて、店内は満席。入口には席が空くのを待っているお客様が何組もいらっしゃった。
ご夫婦は案内係に、
「少し広めの席に案内していただけませんか」
とお願いされた。
二人のお客様であれば、通常は二人用の席にご案内する。
しかも、その日は満席である。
広い席を二人のお客様に使っていただくのは、店舗の運営だけを考えれば難しい。
案内係も、最初はお断りしようとした。
しかし、ご夫婦には理由があった。
亡くなった娘さんの写真をテーブルに置き、一緒に食事をしたいというのである。
娘さんは、東京ディズニーランドに行くことを大変楽しみにされていたそうだ。
しかし、開園を迎える前に亡くなってしまった。
ようやくご夫婦は、娘さんの写真を持って東京ディズニーランドを訪れることができたのだ。
娘が楽しみにしていた場所へ、家族三人で来たかった。
だから、写真を置ける席が欲しかったのである。
その話を案内係から聞いたマネージャーは、
「広い席にご案内してあげて」
と伝えた。
そして、もう一つ付け加えた。
「お子様用の椅子も用意してあげて」
テーブルには、ご主人と奥様。
その隣には子ども用の椅子が置かれ、そこに娘さんの写真が置かれた。
注文時に、ご夫婦は担当の接客係に尋ねた。
「お子様メニューをいただくことはできますか」
当時、お子様メニューには提供できる年齢についての決まりがあった。
接客係はその基準に従って、丁寧にお断りし、通常のメニューから注文していただきたいと説明した。
ご夫婦も、それを理解してくださった。
そして通常の料理を注文された。
その話を接客係から聞いたマネージャーは、こう伝えた。
「ご注文いただいた料理と一緒に、お子様メニューも用意してあげよう」
料理がテーブルに運ばれた。
ご夫婦が注文した料理。
そして、娘さんのためのお子様メニュー。
目の前には子ども用の椅子があり、そこには大切な娘さんの写真がある。
ご夫婦は大変喜んでくださった。
そして後日、レストランにはお礼のお手紙が届いた。
その日の食事が、ご夫婦にとって忘れられない時間になったことが綴られていた。
この話は、その後、少しずつ形を変えながら「東京ディズニーランドの感動する話」として広く知られるようになった。
では、なぜ私が、この出来事をこれほど詳しく知っているのか。
理由は簡単である。
そのとき、その判断をしたマネージャーが、何を隠そう私だったからだ。


コメント